胸の中のきみは


あれから4カ月と11日が流れ、ようやく心に一つの区切りをつけました。
毎年、春になるとユキのことを書いていたし、今年も紹介したいなと。

2008年12月3日。
生きているユキに会ったのは、この日が最後です。
猫のお届けへ行った帰り、久々に寄りました。久々と言っても、数日ぶりです。もしかすると一週間ぶり位かもしれません。大雑把に言えば、ユキはいつも通り でした。行く度に老いて行くような気はしていたけれど、13歳の犬にしてはふっくらとして毛艶も良く、目もきれいでした。

異変に気がついたのは、歩きはじめてからですが、果たして、異変と呼べるかどうか……。
この前来たときより歩くのが少しだけ遅い。
休む回数が少しだけ多い。
息づかいが少しだけ荒い。
ユキの変化を見逃さなかったけれど、多分、他の人には分からないほど全てが「少しだけ」違っていました。
散歩の途中で何度も私を見上げ、笑ってみせる。
いつにない甘え方。
これまで友だと思っていた犬が、子供のように見えました。

もしあの日、猫のお届け前に行っていたら、私はその事を生涯の後悔としていたでしょう。ユキのペースに合わせてあげられず、急がせてしまったのなら……。お届けの後だからこそ、最後の散歩は、自分自身も驚いてしまうほどの時間をかけることができたのです。

散歩が終わっても、ユキの「甘え」は続きました。帰ろうとする私を見つめ、前足を伸ばして「もう少し撫でて」と催促したのです。七年半の付き合いですが、 そんなことをしたのは、はじめてです。私はそれが嬉しくて、二度も自転車をUターンさせて、ユキの家に戻って期待にこたえました。

「ユキ、銀杏の絨毯は、まだちょいと先だね。……早く上にあがって! また来るから」
銀杏の大木を見上げ、頭を撫でました。これが、最後に交わした言葉となりました。

翌日、ユキは逝きました。
飼い主との朝の散歩の途中で、急に足元がおぼつかなくなり、その場に座り込んだそうです。飼い主の男性は、ユキを草の上に寝かせ、マッサージを施しました。

「ユキ。ユキや。どうした? 帰ろう……」
ウトウトと眠るような表情を浮かべながら、お姫さまは、私たちがいるこの世界に別れを告げました。行き先は分かりません。もしかすると天国かもしれないし、別の場所かもしれない。確実に分かっているのは、ユキは納得のいく旅立ちができたことだけ。

ユキの死を知らされ、私は気が動転しました。
いや、動転なんかじゃありません。ユキへの気持ちが強すぎて、亡骸を前に、実は吐いてしまったのです。自分の嘔吐物を片付けた後、ユキの亡骸を抱えて、静 かな場所で泣きました。シクシクなんて可愛いものじゃない。獣のように吠えたのです。ユキは一方的に別れを決めて、勝手に旅立った。私はまだこんなにも、 ユキが好きなのに……。

ねえ、ユキ。


まだ爪を切ったばっかりだよ。


まだ一緒に歩きたかったの。


飼い主が庭に埋めると言ったので、都の条例を簡単に説明して、亡骸を引き受けることにしました。都の条例なんて、どうだっていい。本当はお骨が欲しかったのです。飼い主は、私の提案を喜んでくれました。だから、ユキのお骨は今、703号室にあります。


ユキとかつ


2008年12月5日。
火葬場へ連れて行く際、私はユキからのプレゼントをカメラに収めました。


ユキ。
ありがとう。
まだ先だと思っていた銀杏の落ち葉が、こんなに……。
この道を、ふたりでずっと歩いたよね。
私は散歩の途中で見つける“季節感のあるもの”が好きだった。
銀杏の絨毯が好きだった。

ユキの方は子供が好きで、いつもこうやって下校風景を眺めていたよね。


さよならユキ。


ユキのことを忘れません。
胸の中のきみは、忘れようがない

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かつくん「ぼくとユキちゃんは703号室でいつも同じ場所にいます。ユキちゃんは誰にも迷惑を かけることなく、静かに逝ったよね。実にユキちゃんらしい最期でした。ぼくは“あっぱれ”だと思います。今までハハのこと、ありがとう! お世話をされて いたのは、ハハの方だよね。ハハはユキちゃんが生きていても、生きていなくても、ユキちゃんが大切だって。もちろん、ぼくのことも。

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かつくん なな

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