7月11日に東大軟部外科の診察を受けてからというものの、私は揺れに揺れました。
どっちの道を歩むか、これほど迷ったことはありません。
べべは自分で選択できないのです。私が決めなければ。
東大准教授中川先生からの提示は2つ。簡単にまとめると、QOL向上をめざし手術に賭けるか、なにもせずにこのままにしておくか。
犬猫と暮らしている方の多くが「自然に任せる派」であることは私も知っています。15歳というべべの年齢やこれまでの病歴を考えると、すでに長く生きている部類に入っていることも。しかしべべは西洋医学の外科に助けられ命を長らえてきました。これは紛れもない事実です。
むろん私は、これから先べべが何年も生きるとは思いません。現状、手術で治るレベルでもないことは百も承知です。もし手術を選択する場合は緩和が目的でした。通過を邪魔している腫瘍を少しでも小さくし、食べやすく、寝やすく、生きやすくする道を模索してみたかったのです。
迷いに迷う。
東大の先生方にさんざん説明を受けたあと、大巻先生に見解を伺い、友人らに相談し、チチともとことん話し合いました。いったんどちらかに向かおうとしても、また振り出しに戻るという、自分史上で前代未聞の優柔不断に陥りました。考えすぎて頭が狂うかと。
べべの調子は日に日に下がっていきます。下がり方が辛そうです。
べべは獣医学で解明されていない非常にめずらしい病気で、絶えず腫瘍ができる体質です。ほかのジャックラッセルテリアの中にも同じ病気と闘っている子が数頭いるそうですが、まだ研究段階なのでくわしいことは明らかになっていません。
べべの胃と十二指腸に巨大な腫瘍ができています。そこが食べものの通過を邪魔し、生活の質(QOL)を落としています。現在バイオプシーの結果待ちですが、ガンでまちがいないでしょう。けれど、ここからが重要なポイントなのですが、どうやら悪性度の低いがんで、うまく病巣部を取っ払ってしまえば、大きく改善される可能性も残されているのです。
やるなら今しかない―――。
キャンセルは直前でも可能とのことでしたので、19日に手術の予約を取りました。
予約後も私は悩みつづけました。自分の力では抱えきれないほど。
べべ、そもそも、QOLってなんだろうね。
肝心のチチも「決められない。任せる。べべをいちばんわかっているのはお母さんだからお母さんが決めたことならそれはまちがいないよ」などと投げてくる始末。
相談した友人らも全員同じ答えでした。私がいちばんべべを理解している。だから私の出した結論がべべにとって正しい、と。
決められない、どうしようもない心持ちのまま、19日の手術日を迎えました。
べべ、ごめん。結局決められなかった。でもとりあえずお母さんと病院へ行こう。
もう一度中川先生の話を聞いてからにしよう。
先生は1時間以上かけ、丁寧に説明してくださいました。先生の話を聞きながら、私は何度もべべと目が合い、自分の中でじわじわ結論に到達するのを実感したのです。
べべは私の根幹。べべの登場によって私の人生が真逆の方向へ進んでいったのです。
だからなにを選んでも私は後悔するでしょう。べべはそれほど重要な存在です。
けれど自分にとって「もっとも耐えがたい後悔」は、べべを不慣れな病院に置き、震わせ、闘わせ、挙げ句の果てにひとり逝かせること。私のいない場所で。
元気になって帰ってきてくれるなら手術もアリかもしれません。でも保証がない。消化器の手術は消耗するのです。もし手術自体が成功しても、べべの気力、体力が持たなければ、べべは精神的に私を失ったまま路頭に迷いながら果てていく。
その姿を想像すると、私は手術に踏み切れませんでした。
先生に自分の思いを伝えスッと軽くなった胸で病院をあとにしました。
先生方も私の判断を支持してくれました。ありがたいことです。
さあべべ、お薬を待っておうちに帰ろうかね。
お父さんも話していたんだけど、べべが言葉を話せたらきっと「入院やだ」っていうんだろうね。
お母さんの選択によって、べべは苦しみを味わうかもしれない。それを見るお母さん自身も苦しいと思う。代わってもやれないし、楽にしてやることができないかもしれない。なんにもしてやれないかもしれない。でも絶対にべべの最後の瞬間までいっしょに生きることは約束します。
べべが想像する以上にお母さんはべべが好きです。お母さんの心を割ってべべに見せたい。
病院から帰ったあと、一眠りしたべべはいつものストーカーに戻りました。
なんだよ。洗濯物を干したり、お風呂に入ったりするだけだよ。
なるべくべべを起こさないようコソコソ動きまわっている近頃です(笑)。
※東大病院へのお出かけ写真をいっぱい撮りましたのでまたの機会にUPさせてください!
Smile
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