だいじょうぶだいじょうぶ


ひかるを保護してから、10カ月経とうとしています。

はじめの半年くらいはまーもをはじめ、他の保護猫たちにかかりっきりだったのでうららさんに預けていました。うららさんの献身的なケアのおかげでひかるの目はつぶれずに済んだのです。ひかるに目薬をさしつづけるのは容易ではなかったはず。こんな言葉では足りないけれど、ありがとうございました。

うららさんも懸念していたのは、ひかるの人慣れ。
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外でどんな生活を送ってきたのかわかりませんが、ひかるの人への拒絶心は並大抵ではありませんでした。凶暴と言われる子を数多くみてきましたが、ひかるは その一語で括られるほど、単純な性格ではありません。臆病なだけの猫ともちがいます。本心が一寸も見えないほど、厚い殻に覆われ、完全に蓋が閉まった状態 でした。

密閉された心をほじくり出したかった。早く早く。

私は焦っていたのです。

ごはんを与える役目の人間は、猫にとって貴重です。人間の重要さを覚えさせるため、人慣れしていない子はわざと少し量を減らす作戦を取ることも。はじめは ごはんを減らされたことにも気づかないでしょう。だけどお腹が減ると、人間への期待度が増し、いつの間にか甘えるようになったりします。もちろん、痩せて しまうほど不憫な減量はさせません。駆け引き程度に留めています。それと平行し、とにかくさわる。他の保護主さんとはちがうかもしれないので、私の話を鵜 呑みにしないでください。あくまでも我が家のやり方です。はじめの1週間はそっとしておきますが、そのままそっとしておくと、いつまで経ってもさわれない 場合が多いので、威嚇されても叩かれてもさわるようにしています。チチは得意ですが、私は恐怖心を捨てきれず、いつも遅れを取ります。でも、チチに負けた くないから結局勇気を出してさわるのです。多少慣れるまではケージから出しません。どこに逃げ込むかわからないし、家庭内野良になりやすいから。繰り返し ますがこれはうちのやり方で、他の方のやり方を否定しているわけではないので、一文を読んで誤解せず、本意をご理解くださいね。

ひかるにもこの手を使ってきました。

だけどなかなか通用しませんでした。食いしん坊ですが、欲張りではないのです。与えられた分だけをなんとなく食べ、抜かされた分は気にしていない様子。ま た、他の保護猫の時、暴れていてもなんとなく心が通ずる瞬間を感じることがありましたが、ひかるはじっとしていても、隙を見せようとしませんでした。追い 詰めると機械的にパンチを出すけど、一般的な凶暴性とも言えません。パンチしてくるくらいだから怯えているはずですが、それ以上はわかりませんでした。ひ かるの考えが、まったく読めなかったのです。

ひかるは我慢強い子です。チチがケージから無理矢理出すと観念し、膝の上でじっと耐えていました。無表情のまま岩のように固まって。ひかるを膝に抱いてい るのに、ひかるを感じない。触れているのに、ひかるは遠い場所にいる。なにがこの子を人形のようにしてしまったのでしょう。ひかるの生や魂をちっとも感じ られないのです。この子はちゃんと生きているはずなのに。

焦燥感は虚しさに変わり、諦めに近い状態になりました。幸い、基本はおとなしい猫なので家族募集はできました。さわろうと思えばさわれるし、ひかるの性格を理解してくださる方になら、譲渡できる状態ではあったのです。

でも私は、ひかるの体だけでなく、その心も一緒に譲渡したい。

一方では、半ば諦めた気で、チチともこんな会話を交わしました。

「ひかるは人間にさわられることに、ようやく我慢できるようになったけど、それはただの我慢であって、喜びではないんだよね。この子が自分から私たちに寄ってくる日が来るんだろうか? 自分の感情を表に出して甘える日が……」

「難しいけど“時間”、じゃねーの?」

福多朗が巣立ち、ゴンタが去り、余裕ができた私は、今まで以上にひかるに話しかけました。難しい言葉を並べても伝わらないだろうから、二つの単語をより多く発するようにしたのです。

「ひかる」と「だいじょうぶだいじょうぶ」。

叩かれても、逃げられても、「だいじょうぶだいじょうぶ」。

無視されても「だいじょうぶだいじょうぶ」。

そっと体にふれ、「だいじょうぶだいじょうぶ」。

撫でられた日も、撫でられなかった日も「だいじょうぶだいじょうぶ」。

ひかるへの励ましのつもりで発していましたが、同時に自分を鼓舞する言葉でもありました。この呪文を唱えると、不思議と大丈夫な気がしてくるのです。ひか るは猫が大好きなのであまたたちとちょっと遊ばせたり、ごちそうを手から与えたり、またたびのごほうびを増やしたり、ひかるがわずかでも心地いいと感じる 瞬間に、すかさず「だいじょうぶだいじょうぶ」。

最初は迷惑顔だったひかるも、次第に「だいじょうぶだいじょうぶ」の呪文にかかり、この言葉に期待感を持つようになりました。千回万回繰り返した「だい じょうぶだいじょうぶ」。いつからか「だいじょうぶ」という言葉は、ひかるにとって、いいことが起きる前触れの役割を果たすようになり、今はこの言葉を聞 いただけでケージから飛び出してきます。

喉を大きく鳴らしながら。

いつ、こんなにラブラブになったのかはっきりとは覚えていません。たぶん、ゴンタが去った直後からひかるの心が見えるようになったんじゃないかな? そう考えると、ひかるが心を見せなかったのか、あるいは私に余裕がなく見ようとしなかったのかはわかりませんが。

正直、ひかるだけは外で暮らした方が幸せだったんじゃないかな? と思ったこともあるのです。だけど、やっぱり間違いでした。ひかるが私を信じるようになってくれたことがありがたいです。体をすり寄せてくるひかるの体温やその重みに感嘆し、感謝する日々を送っています。

ひかるのゴロゴロは、今までに聞いたどのゴロゴロよりも鮮明です。

ひかるだって、ちゃんと言ってる。

「だいじょうぶだいじょうぶ」

「ぼく、もうだいじょうぶ」

秀麗な王子さまですこと。
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ひかるはお問い合わせをお待ちしています。

PS 本日、妹がひかるをベタベタにこねくり回しました。どうかチチと私以外の人に体を許した? ひかるの成長を一緒に喜んでくださいね。

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