ただいま。べべ、無事に戻ってきました。まだ麻酔からさめたばかりなので、少しぼーとしているようです。今、ホカペの上で寝息をたてはじめたので、つづきを書きます。
ベベの闘病記です。興味がある方は一つ下の記事からご覧ください。
2008年1月29日に内視鏡を受けたあと、私は大巻先生と手術の相談をしました。
腫瘍がこれ以上大きくなる前に、1日も早く手術を受けさせたい。万にひとつの可能性であっても、失敗は避けたい。元通り、つまり腫瘍ができる前のベベに戻 してほしい、それが私側の希望でした。今から考えると、なんて身勝手な(笑)。でも、それが本音なんだから、仕方ないですよね。
大巻先生は、私からの重圧を受け、いっぱいいっぱいだったでしょうね。申し訳ありませんでした。
「ハハさんは、ぼくがベベちゃんを切ることをお望みですか?」
「私は、日本一の医療を受けさせることを希望しています」
「なるほど。ぼくは、ハハさんの希望を全部叶えたいですが、それができる先生は、日本にはひとりしかいないと思います。もしよかったら、シダ教授がいらっしゃる大学へ行かれてはいかがでしょうか? 診察を受けて、シダ先生に切ってもらえれば……」
「は? シダ先生? シダ先生って、腫瘍学会の権威ではないですか? うちのベベが診察を受けられるのはいつですか? すぐに診てもらえるの?」
「いえ。多分、検査だけで、2カ月以上お待ちになると思いますが……」
「え。なに言ってんの? 先生、2カ月ですって? 2ヶ月後、ベベは生きているんですか?」
「…………」
「2ヶ月待てません。それに、他の患者さんの中に割り込むつもりもありません。シダ先生ではなく、大巻先生が切ってください」
「はい。わかりました。では日程については改めて相談しましょう」
そんなやり取りから半日たった頃、大巻先生が電話をくれました。
「もしもし、シダ先生を、ぼくは直接知りません。けれど、間に知り合いの先生が立ってくれました。シダ先生にベベちゃんの病状を伝えてもらったところ、執 刀してくださるとのことです。どうしますか? シダ先生の手術が希望なら、先生が勤務を終えた夜間からのスタートになります。場所は、うちの病院でやって くれるそうです。それでもよければ……」
大巻先生がどれだけ動いてくれたかを知って、驚きました。
自分が切るだけが選択肢ではない、大学病院へ紹介状を書いて、ベベのことをまる投げしたわけでもない。心の底から、すごいと思いました。
「ベベに日本一の医療を!」
私の願いを、純粋に聞き入れて、獣医師として、最高のプランを提案してくださったのですから。
手術は当初、MOMOペットクリニックで行う予定でしたが、シダ先生のチーム全員が手術室に入りきれないことから、もっと大きな手術室が完備されている梅島動物病院を一棟借りきって行うことが決まりました。無理を聞いてくださった梅島動物病院の院長先生には今も深謝しています。
2008年2月某日夜(当時べべ7歳)
術前検査をクリアしたベベは、酸素室の中へ入れられました。
手術の前日、ドッグランで走っているベベの姿が過りました。もしも麻酔から覚めなければ、今日がベベの命日。私の足がガクガク震えました。横にいたチチは、全身が震えていました。
シダ先生のチーム(5名)が到着。
すでにベベのケアをはじめていた大巻先生と、シダ先生に呼ばれ、診察室へ入りました。
「覚悟はいいですか? 手術中に亡くなるのは、全然珍しいことではありません。また、無事に手術を乗りきっても、術後の合併症の危険がつきまとう。腹膜炎を起こしたら、亡くなる可能性が非常に高い。こちらも最善を尽くしますが……」
シダ先生の目を直視していた私は、軽く頷くだけで精一杯でした。
「それにしてもあなた方ご夫婦は、大巻先生というすばらしいドクターにめぐり会え、ラッキーですよ。自覚症状がまったくない犬の胃がんを発見するのは至難です。彼は有能な先生ですね」
シダ先生に褒められた大巻先生は、表情を変えないまま、頭をぺこりと下げました。
手術法について簡単な説明を受けた後、シダ先生はチームと共に、梅島動物病院の大手術室へ。
私のへたくそな絵ですが、上が術前のベベの胃。下が、これから目指す手術。
マージンを広く取るため、胃の半分を切り落とし、十二指腸と直接縫い合わせるのです(ビルロートI法)。なるほど。これはただならぬ大変さだわ……。
めまいが起きました。
横にいるチチが私の耳元で囁きました。
「泣いてはだめだよ。今は泣かないで」
手術室はガラス張りになっています。シダ先生チーム+大巻先生は、手術部屋の中。外には、シダ先生のオペを一目見て学ぼうと、大勢の梅島動物病院の先生や 関係者がいました。20名以上いたでしょうか? 夜も遅いのに、今後の医学の発展のために、立ったままベベの手術を見守ってくれていたんですね。見物者た ちが、ベベに直接思い入れを持ってくれなくてもいいのです。ただ、オープンな場所で大勢に見守られていることが重要だったのですから。
私とチチは、モニタールームから、一部始終をみることを選びました。TVの画面には、ベベの腹部が映っています。TVドラマでよくやってるでしょ? あれ のリアルバージョンです。ベベのお腹がメスで切開されるところ、吹き出した血を拭いているところ、先生の手で内臓を取り出しているところ、内臓を切り取る ところ、なにかを入れて縫い合わせるところ、何重にも慎重に縫い合わせるところ……。
勇気がいることですが、ベベの何もかもをみて知っておきたかった。
3時間は経ったでしょうか?
手術室の方から小さな歓声が漏れました。
どうやら、手術は無事終わったようです。
シダ先生が、手にガラスの瓶を持って、足早にモニタールームにやってきました。
「どうにか終わりました。合併症の危険がありますので、まだ喜ぶのは早いです。こんなに大きな腫瘍が、2つ取れました。しかしこれで自覚症状がなかったのか……。普通、ここまできたら、食べることも出すことも苦痛だったと思うんだけど。本当、不思議です」
私たちは深々と頭を下げました。
そして、麻酔から完全にさめる前に、べべと大巻先生を車に乗せて、梅島動物病院からMOMOペットクリニックへと出発したのです。ベベはこの日から、計4日の絶食絶飲です。合併症を起こすと死んでしまうため、大巻先生が、術後、不眠不休で、4日間、ベベに添わなければなりません。
時刻はもう、夜中の2時でした。
今日を乗りきったことが、本当に奇跡でした。
つづく
かつくん「ベベちゃんに会ったことがある方は、まさかこんな大手術を乗り越えただなんて思わないでしょ? ベベちゃんは手術前も手術後も変わらぬ元気さですから。
ジャックラッセルの胃がんが多いらしい。ハハはいいとされているブリーダーからベベちゃんを買ったんだけど、先天疾患の問題って、根深いよね。
そもそもいいブリーダーってなんだろ? って感じだけど。
シダ先生はベベちゃんを切った後、数時間仮眠を取って、チームと共に飛行機で地方へ行って、オペする予定が入っていたそうです。日本のあちこちに神の手を必要とする患者がいるんだね。獣医学がもっともっと発展、向上しますように。
ハハの本、それでも人を愛する犬をよろしく!
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