足跡


動物愛護法改正の署名用紙はいつも持ち歩いていました。
だからその日も、べべとのお散歩グッズの中に忍ばせて土手へ向かいました。署名にご協力下さいと笑顔で近づいても、7割の人が警戒してサインをくれませ ん。私に出来ることは所詮こんなものかと落胆しながらも、たまに快くサインしてくれる人に出会う快感を味わうこともありました。

土手を歩いて橋の下まで行くと、ホームレスらしき人間の固まりが目に付きました。でもUターンするのは失礼だし、目を合わさずに何となく通り過ぎようと思った時、イリさんが私に話しかけてきました。

「可愛い犬だね。何歳?お姉さん、手に持っているものはなあに?」

「べべです。まだ1歳です。あ、これ、署名用紙、法律改正の。なかなか書いてくれる人が居なくて。」

「どれどれ見せて。俺はホームレスじゃないよ(笑)。おっかぁ(奥様)と向こうの団地に住んでるよ。だからサインしてあげるよ。大丈夫、貸して。」

中の一人、イリさんが私に話しかけてきたのがきっかけで足を止めると、テントの奥から元気な熊ちゃんのような子犬が走って来ました。それが、最近の主役、リュウでした。

数人の男性が固まって何やら話しながらお酒を飲む横で、リュウは無邪気に木の枝で遊び、汚い体で土手を走り回ったり転んだりしていました。多分生後1ヶ月ちょっとの頃。

リュウを見つけた私の心境は、何度も過去に書いているので省きますが、とにかく、土手から出したい、保護したいとそれだけでした。でも、壁は厚く、誰も私の話を聞いてくれなかったし、思いっきりイヤラシイ事を言われて気分が悪くなるだけでした。

家へ帰ってもリュウの事を忘れられず、私は近所のホームセンターで子犬用のフードやら蚊取り線香などを購入して、ズボンに履き替えて再び土手へ。再度子犬 の保護を頼んだけど、相手にされなかったので、注射へ連れて行く約束をなんとか取り付け、物資を置いて又帰りました。待てよ、話しかけてきたイリさんだけ がホームレスではない、イリさん自身がそう言ったのを思い出し、又、あの輪の中でイリさんの権力が際立っていたのを思い出し、署名用紙に書いてもらった住 所を訪ね、対応してくれた奥さんを巻き込んでリュウの保護をお願いしました。
しつこくしつこくリュウの保護をしたいと訴える私に「諦めなさい。コウちゃんはリュウを手放さないよ。何度言っても無理だよ。これ以上しつこくすると、怒られちゃうぞ。」とイリさん。

そのイリさんが、この前リュウを土手から出す時に、リュウに会いに来ました。
「随分長くかかったな。」そういって私にリュウを渡してくれました。

皆様には、リュウのテントが焼かれた話をしたのですが、私の思い出の中では、台風の季節のリュウが一番印象深い。台風はほぼ毎年、容赦なく土手を襲いまし た。人目を避け、火事を避け、川辺にテントを張っているホームレスと犬にとって、台風はいのちに関わる天災。水嵩が増すと、繋がっている犬は溺死しかねま せん。ホームレスは、缶を売った有り金で、酒場へ避難する事も出来る。でも係留されたまま留守を強いられると、犬は水害に遭ってしまう。それが怖くて、K さんも私も、それぞれが担当するエリアを回って、ホームレス達に犬を連れて避難するよう頼んでいました。

リュウに限らず、ナナが土手に居た頃も、リルが土手に居た頃も、他の子の頃も。多分今年も。

台風の猛威があと少しで過ぎようとする頃、いつも待ちきれない気持ちを抱えて土手へ向かいました。リュウは生きているのかな?あの子は?この子は?皆無事かな?

そして橋の下でびしょ濡れになったリュウと飼い主のホームレスを見つける。
「何時間ここに居たの?」
「夕べからずっと。」
「リュウは大丈夫?」
「はい、見ての通り、まあ、元気です。」

平たく言えば可哀想、そんな表現が適切でしょうか。
でも私は台風を避け、壁のない橋の下で横殴りの雨風に打たれ続けてきたリュウの姿を、可哀想の一言で片付けられません。いつも「犬の聖歌」を思い出してしまう、いつも。

犬の聖歌のモデルになった犬は、きっとリュウのような犬であったと思います。
そして酒場へ避難せず、台風が支配する土手の橋の下で、リュウとずっと一緒に居た元飼い主のホームレスにも、今なら好感が持てます。

この6年、いつも私はリュウを見守ってきたつもりです。でも、幾ら見守っていても、リュウのいのちを保障してあげることは出来ませんでした。リュウはいつこの世から居なくなっても不思議ではありませんでした。亡き兄弟たちがそうであったように。
私はリュウを見守りたかったのではなく、始終この手で守りたかった。「見守る」と「守る」は違います。「見守る」は虚しい。そして、苦しい。

だから今、どう自分の気持ちを表現したらよいか、うまい言葉が見つからないけど、とにかく、とにかく「ヤッター!!」の気持ちでいっぱいです!

リュウは19日、月曜日のお昼に巣立ちました。

今は環境の変化が著しく、少し戸惑う部分もあるかもしれないけど、愛してくれて、守ってくれる人とこれからはずっと一緒に居られます。その愛は、互いに苦 境の中支えあう愛とは少し違って、平安や幸せを存分に味わっていいのよ、とリュウに対して与えられる愛。憩う場所のある普遍的な愛。明日の保障のある愛で す。

次回、リュウの近況をUPします。
お楽しみに。

リュウ、卒業おめでとう。


(写真は華ママちゃん提供)

「リュウ君の新しいおうちでの様子は次回UPするって。長い道のりだったけど、本当に良かったね。ランキングに参加しているのでぽちっと押して応援してね。かつくんより。」

703号室かつくん&なな

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