愛を纏う犬1


~ひとり目の飼い主~

ひとり目の飼い主の手によって、タロウを産んだ母犬のタカコは死に追いやられました。

タロウが離乳した頃の事。タカコと一緒にそこで生まれ育った兄弟犬2頭も、惨めにこの世を去りました。タロウが生まれるずっと前から土手に通い、犬達の環境を改善しようと努力した私は、11頭居たタロウの親戚犬のうち、今日現在既に5頭失っています。

6年という長い年月を費やし、3頭の犬(ナナ・リル・リュウ)を土手から出すことができましたが、今尚土手には、タロウの叔父にあたる犬が2頭、ひっそりと日常を送っています。だからタロウを土手から出せたことは、私にとっては奇跡なのかもしれません。

いや、あの環境で折れずに生き延びたタロウそれ自身が、実は奇跡なのだと思います。

一番賢いという理由で、ひとり目の飼い主の傍を逃れられなかったタロウは、土手の中でも最低なテントで2年過ごしました。餓えや渇きや暴力に蝕まれ、母親 や仲間達がこの世を去っていくのを、タロウはどんな思いで見送ったのか。そして救ってやれなかった私に、どうして笑顔を向け続けてくれるのか、一度聞いて みたい気がします。

タロウ自身も、子犬の頃から随分殴られて育ちました。飼い主は、その日その日の感情に任せ、タロウを殴りました。タロウは混乱しましたが、混乱さえも抱きかかえて受け入れるしかありませんでした。従順な犬は、現実を全うする以外の術を知らないからです。

その環境に置かれたタロウは、その中で精一杯成長してくれました。
正直言って、あの頃の話を書く事は辛いです。
思い出さずに済むものなら、思い出したくはありません。
けれど、タロウという犬を少しでも知って頂きたくて書きます。
私がタロウにしてやれた事は、あまり多くはないから・・・。

2歳を過ぎた頃、ひとり目の飼い主だった男が突然死して、その運命は好転するはずでした。
けれど、タロウには、まだまだ苦難が付きまといます。

~ふたり目の飼い主~

ホームレスの男性。
ようやく生き場を得たタロウを置いて、1か月以内に行方不明になりました。

~三人目の飼い主~

ホームレスの男性。
タロウを引き取ってすぐ、タロウを捨てて土手を出ました。

~四人目の飼い主 前~

ホームレスの夫婦。戸籍上は他人でしたが、お互いが夫婦と名乗っていました。

ふたり目、三人目と飼い主が変わり、忙しく流転させられたタロウを見失った私は、ここでようやく、その居場所を突き止めました。土手は広いのです。知り合 いのホームレスにタロウの居場所を聞き歩いているうちに、自分の身にも、計り知れない疲労感が襲ってくるのを感じました。

タロウのテントの場所を知った私は、夕暮れを待って向かいました。

はっきりと覚えています。
空が太陽に焼かれ、オレンジ色に燃えているように見えた神秘的な日でした。

フィラリアの薬、焼酎2本、タロウのフード。
それらを担いでテントを目指すと「マムシに注意!」という看板が見えて来ました。都内の一角とは思えない風景。歩き進めるうちに、タロウの姿が見えて来ました。タロウは、テントの端に作られた質素な小屋の中から可愛い笑顔を覗かせて、尻尾を振って私を出迎えてくれました。

「タロウ!!会いたかったよ!!元気してた?さあ、おいで!!おいでおいで!!」

興奮気味の私に波長を合わせ、タロウも楽しそうにはしゃぎます。私たちはまるで、離れ離れになって久しく、やっと再会を果たした恋人のように抱き合いました。

すると突然、
「こら!!この役立たずのチクショウめ!!」
ものすごい罵声と共に、テントから女が出て来ました。

「タダ飯食わして貰ってると思ったら大間違いだぞ!!このバカ犬が!! ん?お宅は誰?何でここに居る?こんなところで何やってるんだ!えっ?」

女は明らかに不機嫌で、その怒りは不審者の私に対するよりもまず、番犬として役目を果たさないタロウに向けられていました。木の棒でタロウを小突いたり、 サンダルを投げつけたり、それは、ご機嫌取りに持ってきた焼酎を手渡すまでずっと続き、私が来た事で、タロウを苦しめることになったと自分を責めずにはい られない状況でした。

「お酒、次も持ってきます。私の家、酒屋なの。だからいっぱいお酒があるんです。」
挨拶代わりにそう嘘をついて女のご機嫌を取ることに成功した私は、続けてタロウに薬を飲ませる許可を取り付けました。

「この犬は賢い、番犬になるからって言われてうちが引き取ってやったんだよ。なのにちっとも吠えねぇ。誰が来たって尻尾振って、これじゃ役にたたねぇっ て、お父ちゃん怒ってるからあたしがしつけしてやってるんだ。本当、愛想だけはいいバカ犬で、どうしようもねぇよ。」と女。

「あ、そうですか?そんなに役立たずならここに居ても意味がないわね。世話の方が大変でしょう。私が引き取りますよ。その方がいいと思いますよ。」と私。

「いや、それは断る。こんなバカでも、居ねえよりはマシだよ。お父ちゃんがこの辺は物騒だから犬は置いとかなきゃダメだって。とにかくこの辺は、物騒なの。」そう言って女は私が渡した焼酎を持って小屋の中に消えて行きました。

タロウと二人きりになって、私はその耳元で「作戦失敗!ごめんね。」と囁きました。

そして「タロウ、もっと賢く生きないとやられっぱなしになるよ。お願いだから言うことを聞いて、もう少し頑張ってね。私、何か方法を考えてお前を土手から出すから。」と続けました。

10日後、まとめ買いした犬の缶詰を手に、再びタロウのテントを訪ねた時のこと。

そばに置いてあった自転車を退かして、テントに近づこうとした瞬間

「ワワワワワンッ!!」
タロウが威勢よく吠えました。

そして私の顔を得意そうに眺め、背筋を伸ばして尻尾を振りました。

その姿があまりに誇らしげで、まるで「ぼく、番犬として頑張ってるよ。ちゃんとお仕事して、役に立てるようになりたい。」と言っているようで、私は泣きたい気持ちをぐっとこらえ、タロウを撫で、お前は凄いのね、偉いのねと繰り返し褒めました。

その頃のタロウ。四番目の飼い主の夫婦の足元にて。


この後、タロウはまた捨てられてしまいます。
どんなに努力しても、タロウ一人の力ではどうしようもない。でもタロウは、諦めずに闘い続けました。話の続きは次回へ。

すっかり長くなったので、今日はここまでにします。
4年半以上の出来事を、端折って書いているのでどこまでしてやれるか分かりませんが、ひとりでも多くの方の目に留まり、こうやってひっそりと、しかしながら力強く生きて来た犬も居ると知って頂けたら本望です。

「同窓会の参加記事、改めて書きます。今のところはまだ卒業生まりん一家だけ。沢山のご参加お待ちしています。タロウの事、長くなったけど読んでくださってありがとう。続きは次回更新の時に書く予定です。

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かつくん なな

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