奴隷


Kさんの奴隷になることに決めました。

全くあの人は、私よりずっと年上なのに、その笑顔は少女のようで、誰に対しても愛情豊かで、丁寧で、あの人と出会えただけでも、神様に感謝しなくてはなりません。

いいえ、感謝すべきは神様ではなく、6年前、Kさんと知り合うきっかけを作ってくれた土手の犬達。財産って、お金や宝石を言わないのですね。家や車でもない。Kさんと出会った事は私の財産です。そして出会った犬や猫達が、私の財産です。

ババ(母)の店へ水曜・木曜お手伝いに行くことにしました。娘に来て欲しい母親、小遣いが欲しい娘。けれど愚かな娘にとって、傷だらけの野良猫が通う店は 億劫でした。うまく断る理由が見つからず、ババに押し切られて昨日からお手伝いを再開してクロに直面し、今日は夕刻あたりから、行きたくない病に悩まさ れ、軽い頭痛を催しました。

ババはお通夜へ出かけるので、私が行かないわけにはいきません。
6時に店へ着くと、裏手にクロへのお刺身が用意されているのが目に付きました。
ババは希望に満ち溢れている人間です。自分の周りにもいつも希望があると信じている。だから普通にお刺身を用意して、鼻歌を歌いながら出掛けることが出来る。あるいは、寿命の限り、クロにお刺身を与えれば、一種の自己満足に浸れるのかもしれません。

私はわざと、お刺身から目を背け、客席の方へ移動しましたが、病的に気になり、クロはまだか、クロはまだかと2分おきに裏手を覗き込む。待たないようにしながら、待ってしまったこと1時間、覇気の消え去った骸骨のようなクロが、静かにやって来ました。

又見てしまった。この姿を。又会ってしまった。今日になれば元気になってるとどこかで信じていたのに。やっぱりクロは、死に向かって急ぎ足で歩いていくのね。

お刺身に手をつけません。ムキになって鶏肉を切って与えました。
1口しか食べません。
食べれないなら早く消えてくれ、視界から居なくなってくれ、苦しすぎる。そう思う反面、クロがのそっと動くたび、何処へ行くの?だめよ、ここに居なさいとちぐはぐになる。

いつもより長居するクロ。店内の裏手に入って隅で小さく丸まっています。
帰ってきたババが手を差し伸べたら猫パンチ。ババの手から赤い血が流れました。
店内と言っても、入り口のすぐ傍。逃げようとすればすぐ逃げれる。
クロはいつだってそうやって出口を確保して、いつだって私達に腹を見せたりしない。

私はしばらくクロを眺め、病院へ連れて行くにはどうしたら良いかを考えていました。

無理に寿命を延ばそうとは思いません。ただ注射1本で楽になれる痛みなら、取り除いてやりたい。どこまでできるか分かりません。でもクロは食べたくて、い つも通りに生活したくてここにやって来る。それが痛いほど良く分かる。もう一度、美味しいマグロを食べれるように、お腹いっぱい食べれるように、私は病院 へ連れて行く決意を固めました。

クロにばれないように、違う出入り口から出て、クロが入ってきた入り口を瞬時に閉める練習を頭の中で重ね、店の裏手に閉じ込める作戦を練りました。それが うまくいったとしても広い店内。どうやって捕獲するかが問題になる。クロの性格を考えると簡単に捕まるとも思えず、又違う出入り口からいとも簡単に逃げて しまう姿が想像できて、頭を抱え込みました。全部の入り口を塞ぐことは出来ません。お客さんが出入りできなくなるから。

考え込んで違う部屋へ移動し、Kさんにアドバイスを貰おうと電話してみました。Kさんは非常に捕獲がうまい。もしかするといいアイディアがあるかもしれない。手短に用件を話すと、網を持って今から行くわ、と電話を切られました。

その言葉に安心感を得て、Kさんが来るまでの間、クロを店内に閉じ込めておくことに専念しました。気づかれないように反対側へ回って、出入り口の扉を閉める。

よし!!
うまくいった!!
以前この手で試した時は、クロのすばしっこさにやられたけど今のクロは前より鈍い。ドアを閉めたことに気がついて不機嫌な顔をしているけど、出口を探して暴れてはいません。

クロを閉じ込めてから5分。
大きな虫取り用風の網を持って、Kさんが店へ到着しました。
店の外でミーティング。網を持ったKさんをクロが見たら、どんな反応を示すかは知っています。だからこそ、失敗は許されない。何度も何度も話し合い、いよ いよKさんが入っていきました。表の入り口から入ったので、お客さんは大きな網を持つ姿に目が点。私は裏手の施錠をし、クロが暴れても外へ飛び出せないよ うにしました。

網を持って近づくKさん。
追い詰められたクロは、元気を振り絞って客席へ乱入。お客さんは皆驚いていました。

格闘は、Kさんの圧勝。女性とは思えない素早さと、適切なやり方で、クロを網の中に入れることが出来、網を袋状にロープで縛り、閉じ込めました。網が破れては大変、ということで上からシーツを被せ、そのまま近所の病院へ。

携帯で撮った汚い画像ですが、お店の裏側へ入ってきた時のクロ


写真だと綺麗に見えるかもしれませんが、実際外見はひどいものです。

網ごと診察を受けるクロ。


インターフェロン、抗生物質、ビタミン剤などを点滴してもらいました。


Kさんと相談して、今日いっぱいは入院させ、明日の午前中再度点滴を受け、クロが動きやすい夜に放すことに決めました。のみやダニがクロを包んだシーツに ベッタリとくっついていたので、放す直前にレボリューションもしてもらうことに。レボリューションなら、お腹の虫も駆虫できるので、フロントラインよりい いと思ってお願いすることにしました。

このままでは後数日だったといわれたクロ。緊張も手伝ってか、熱も非常に高く、鼻炎もひどく、悪い状態でした。たった2日の治療で何処まで出来るか分かり ませんが、生粋の野良のクロを長くいたずらに病院へ置く事は考えていないので、少しでも効果が出てくれることを祈っています。

クロは捕まるまで必死に抵抗しましたが、捕まると観念して、おとなしくしていてくれました。網越しにはじめて触れたクロの感触。傷だらけで肉がなく、毛艶など何処にも認められなかったけど、私は、私はとても嬉しかった。

Kさんは、クロちゃんは助けを求めていたのね、と帰り際に言っていました。
クロはあんなに抵抗していたのに、そう言われると、違うと否定できない。
助けを求めて、食べれないお刺身の横でいつまでも座り込んでいたのかもしれない。
ただ、傷ついても気高いクロは、人間の世話になんかなるものかと、意地を張っていたのかもしれない。あるいは、温かい手のぬくもりを知らなかっただけかもしれない。

治療にいい結果がついてくるかは分かりませんが、Kさんに深く感謝します。
私一人なら、間違いなくクロは捕まらなかった。
だから私は、Kさんの奴隷になることに決めました(笑)。

いいことを書いて油断していると何があるか分からなくて怖いのですが、ついご報告しちゃいました。

「昨夜すごいことがあったんだね。お客さんは目が点だろうね・・・。一応飲食店だし。ハハは何にも仕事せず、クロが捕獲できるまでそれだけを考えていたか ら後からババに怒られ、お店へ戻って仕方なく働いていました。そして深夜にビリー。久々に夜更かししちゃった肌に悪いと、今更そんなこと言ってます。

クロを病院へ連れて行ったことについては色んな意見があると思うけど、誰だって健やかに生きたいもの。ぼくはそう思います! ぼくは病院嫌いだったけどね。

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