一晩寝ればいよいよチチが帰って来ます。こんなにチチの帰りが待ち遠しいのは、初めてかも(笑)。母子家庭では、犬達に不自由をさせてしまうし、かつを撫でる手だって、2本よりは4本の方がずっと良い。
かつくんは、今日缶詰を数口食べましたが、途中で悲鳴のような鳴き方をしながら飲み込みました。その後ニャーニャーと私の目を真っ直ぐ見つめて何か必死で 訴えてきましたが、何を訴えたかったのかうまく理解してやることが出来ませんでした。病院は相変わらず毎日行っています。通院の負担になる事は全て避けた いので、病院に居る間はトイレだって我慢します。そして予め一人で駐車場へ行って車を出し、マンションのすぐ下に横付けし、すぐに乗り込めるよう準備しま す。途中に幾つも店がありますが、寄るなんてとんでもない。1秒も早く、とにかく早く病院を目指し、703号室を目指します。
こんなこと位しかしてやれない私ですが、かつは優しく接してくれます。パンパンに膨れたお腹で頑張ってお出迎えしてくれる時もあるし、私の姿を探して歩き回る時もあります。今も私から一番近い場所でじっとしています。私を一心に見つめながら。
さっきテレビで、24歳の女性が癌に侵され、余命1ヶ月を懸命に生き抜く様子が映し出されていました。私は勿論泣きました(笑)。彼女は亡くなるまで、 懸命に闘い抜いたし、何より周りの支えが素晴らしい。奇跡をひたすら願いながら、彼女を一人にしなかったそうです。それを観て反省です。
私は去年癌で父親を亡くしましたが、随分独りぼっちにしてしまいました。
恥ずかしながら、実家はあまり裕福ではないので、ババ(母親)は働かなければならず、親不孝娘の私は、保護活動で犬やら猫やらで走り回っていました。父親は家族依存症のような人間だったので、きっと病室で独り、孤独とも闘わなければならなかったでしょう。
行くと決まって「次はいつ来る?パパお姉ちゃんが来てくれると嬉しいんだよ。」と言われました。「すぐ来るわ。明日も来るから。」と病室をあとにして 振り返ると、決まって笑って私を見送りました。そして去年、桜が満開の頃、私は父を連れて、病院をこっそり抜け出し、手を繋いで桜の大木を眺め、その後 ファミレスへ寄って餃子を食べさせました。美味しい美味しいと3つも食べ、マンゴージュースも飲み干しました。
父には余命の事は知らせませんでした。知らせないことを決めたのは私。いまどき余命を告知しないなんて、時代遅れですよね。けれど余命は知らせませんでした。
癌の最も恐ろしいところは、比較的意識がハッキリしているのに、体が衰弱したり、激痛を感じたりするところだと個人的に思います。意識があるのに苦しくて 仕方ない、つまり死を実感しながら生きていかなければならない、まともな意識を保ちながら、死へ向かっていく、そういう病気です。自分もかつてはそれに侵 され、近年親しく愛した人達を4人癌で失った私が「癌」に持ったイメージはそういうもの。
父親は、最後の方、恐怖や激痛と闘いながら、ハサミで点滴の管を切って血だらけになったり、何度も何度も立ったり座ったりを繰り返し、娘の私に「生きて る。まだやれる。」「まだできる。まだできる。」と言い続けました。見ているのが辛かった。この一言に尽きます。そしてその姿を忘れることはないと思いま す。
かつの病気も、比較的最後の方まで意識がハッキリしていると言われました。今も十分過ぎる位闘っているのに、もしこれ以上悪くなってしまったら?それでも 意識がハッキリしていたら?痛みや苦しみをまともに感じていたら?そう考えると、とても恐ろしい。考えると何処までも堕ちてゆくので、起きながら最近は夢 を見るようになりました。病院から電話がかかってきて、FIPの特効薬を入手できたので、早く病院へ来てくださいと言われて喜ぶ夢。朝起きたら前みたいに かつが起こしに来て、お皿いっぱいのフードを平らげる夢。かつの4歳の誕生日を家族皆で祝う夢。奇跡が起こる夢。
しばらく瞑想に耽って、かつの元へ近づくと「どしたの?」といたずらな眼差しを私に向け、尻尾を動かしながら横たわっています。気分転換にバルコニーヘ連れて行こうと、膨れたお腹に触らないようにそっと抱くと、なんとまあ温かい。
そのまま潰してしまいたくなる位強く抱きしめて、自分の胸にその体を全て押し付けてしまいたいけど、それではかつが苦しい思いをしてしまうから、そっと支えるだけ。
心の中で強く強く抱きしめて、共存する喜びを噛み締めながら、夢のような時間を送る。今の私は、最高に苦しくて、最高に贅沢な時間を過ごしている、そんな気がします。
皆様も、愛する人、愛する犬、愛する猫と贅沢な時間を過ごしてくださいね。
今は永遠ではないから。
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