ねえゴクウ。真新しい赤の首輪が似合うね。
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この前、生まれて初めてのシャンプーの後、濡れた体をブルブルして、あどけない瞳で私を見つめた時、なんてきれいな男の子だろうと感動しました。すぐさま抱き寄せてゴクウの心臓に耳をあて、ドクドクドクドクと波打つ心音を自分の中に保存した。
ゴクウはもう、振りかえっていないから、私も振り返るのは今日で最後にするね。
ねえ、ゴクウ。
十キロに満たない体では、色々と不自由も感じたでしょう。
子犬の頃のあなたは、疥癬に蝕まれていた優しい成猫を母親のように慕っていたよね。疥癬がひどく、顔がただれてしまった猫の額を、小さなあなたは舐め続けた。
ペロペロペロペロ。
ペロペロペロペロ。
子犬に疥癬がうつってしまう!
猫を憐れみながらも、心配そうに眺める私に「ミーがペロペロすると、喜んでくれるんだよ! ミーは大丈夫。だからそんな目でミーたちを見ないで!」とでも訴えるように、猫の体を細い前足でしっかりと支え、あたたかい唾液を繰り返し上塗りした。
ペロペロペロペロ。
ペロペロペロペロ。
少しして、その猫は亡くなり、あなたは母親代わりの大切な存在を失ってしまった。
腐った牛乳。
パンの耳。
怒鳴り声。
棒。
痛み。
暗黒の社会を創る木箱。
仲間の死……。
ここに挙げようと思えば、きりがないほど、絶望の矢が小さな体を狙っていたけれど、現実は厳しいものだったけれど、それでもあなたは、不幸の数を数えようとはしなかった。
703号室内で朝から晩までよく働く尻尾。
ブンブンブンブン。
フリフリフリフリ。
ねえ、ゴクウ。
土手で生きていたあなたがやってきて、私は色々考えたの。
いいえ。本当はゴクウがくる前から、たまに考えていたことだけれど。
私も人並に生きてきて、人並に裏切られ、人並に傷ついて、躓いたりした。
特に、幼少期や少女期の頃は、思うようになんて、全然生きられなかった。
そして私も、歩んできた道中で、何かを壊したり、誰かを傷つけたりした。
だから不幸の数を数え、溜息ばかりの青春時代を送ったの。
今は図太くなって、いい意味でも悪い意味でも少々強くなって、過去は教科書だと思うようにしているけれど、それでも時たま、ほんの一瞬、被害妄想に駆られることがある。
あああ。
ゴクウのようになりたいな。
ゴクウだけではなく、我が家にやって来た犬猫達はみんなそれぞれ何かしらを抱えているはずなのに、巣立つ頃には、笑顔しかなくなってしまう。
いつもいつも思うことだけれど、犬や猫の心の再生力は、宇宙の神秘だね。
「宇宙の神秘であり、人類の宝ともいう」
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そうね。
人類の宝なら、人類からもっと恩恵を受けないと損だわね。
「それよりも、ミー、赤似合ってる?」
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うん。すっごく似合う。YOUに似合いそうなものをオーダーしたんだもん。卒業後もずっと使えるよう、丈夫なものにしたかったから。まあ、卒業記念のお婿入り道具の一つよ。
皆さま、ゴクウは今週末、我が家を巣立ちます。
募集もしていないうちに卒業が決まったのですが、里親さんとは既に数回お会いしてお話をさせて頂きました。ご存じの通り、ゴクウはコロンJと共に土手のホームレスのテント小屋で長年生きていました。ホームレスも多種多様。ゴクウはコロンと共に4歳の頃、辛い暮らしから解放され、穏やかなホームレスに引き取られました。
痛みからは逃れたけれど、楽園とは程遠い暮らし。
いつ住処を追われるのかさえ、分からない。
私もいい加減、彼らを心配するのは疲れたし、解放されたいと願っていました。
だからどの年にもまして、積極的にホームレスたちとの交渉に臨みました。コロンはすんなり手放してもらえたけれど、一族の最後の犬、ゴクウはなかなかそうはいきませんでした。そこで、色々と作戦を練りました。交渉へ行くタイミング、回数。説得の方法。お酒や食料品や金銭を渡し、手紙を書いて情に訴え、何度も何度も頭を下げました。土手のホームレスたちは、生活の糧である“空き缶”や“古紙”の大幅な値下げに喘いでいます。だから、「今」なのです。彼らの生活が今より潤っていたら、保護は叶わなかったでしょう。
「犬どころではない」
皮肉な話ですが、彼らの生活が最も苦しいこのタイミングだからこそ、ゴクウを保護できた。そんな気がします。
土手で暮らした約7年間は、良いも悪いも変えようがない。
けれど、未来は無限だから、どうか安全に、健やかに、幸せに、そして一秒でも長く、「生きる」を満喫してほしい。
かつくん「ゴクウ、おめでとう。ゴクウの新しい家族の紹介は卒業後にします。まだ数日間は703号室にいるから、又会いに来てね。新しい家族の方々には、土手犬の危うさをめいいっぱい伝えたハハ。脱走や迷子がどうしても心配なんだって。ああと、ゴクウが可愛いから盗難も心配だって。けれど、とってもいいご家族だから、きっとあらゆる危険からゴクウを守ってくれると皆で信じています。
ゴクウの卒業、チチは絶対に、泣きます!
703号室はランキングに参加しているので、ぼくとナナちゃんの写真をクリックして応援してね。沢山の人に読んで欲しいから。」
ペットシッター「にくきゅうのおせわ屋」をはじめました
お留守番をがんばるかわいい家族が「お帰り!」と目を輝かせて出迎えてくれるよう、安心・安全に最優先で心を込めてお世話します。
足立区・荒川区・文京区を中心に活動してますが地域のご相談やお世話内容など、
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