ACO2 あなたを幸せにする理由

あまりの強風で洗濯物がどこかへ飛んでいきました(泣)。友人に結婚祝いでもらった高価なバス タオルも飛びました。探したけれど、見つかりません。そのタオルは、客用だったのにも関わらず、チチが使ってしまったので、仕方なく洗ったものです。早く 出稼ぎから帰って来い! 日頃の不満と一緒に清算してやる! そしてご心配頂いている私の腰痛ですが、情けないことに悪化しています(涙)。

不妊手術と合わせて、フィラリア検査(-)、フィラリア投薬、9種ワクチンを施しました。衛生面を考えて、長めに入院させて、それから土手へ戻しました。戻すとき、Iさんが飼い主に「ACOを誰かにあげる気はないの?」と聞くと「ない」と返って来ました。

土手の犬は、何もしなければ1年~3年で死んでしまいます。寒さ、偏った栄養、そしてパルボなどの病気。一番怖いのはフィラリアです。彼らは年中、蚊の攻 撃に遭い、重度のフィラリアに罹ってしまう。703の姫様、ナナもひどいフィラリアでした。私は、彼らの保護、または、彼らの寿命を伸ばすことを目標にし ています。土手で生きるのは過酷でしょう。けれど少しでも状況を改善し、少しでも長く生きてもらいたい。「土手で生きているんだから、早死にしても、それ があなた達の運命ね」とは思いません。犬の運命は私の手に委ねられている。一人の主婦がそれを変えられると証明したいのです。

若すぎるACOに土手で15年生きられると、ちょっと困る(笑)。だから絶対に土手から出さなくては。

手放す気がない。盗むのは危険。ならどうすれば良いのか……。そこで、人間観察に徹しました。飼い主のホームレスとは初対面状態でしたので、まずはその性 格をよく観察してみることに。どんなものが好きか。どんな弱点があるのか。小屋を留守にする時間帯は? 就寝時間は? そして、仲間からどう思われてる か? 仲間が多い? など、とにかくちょくちょく通って観察しました。

好きなのはお酒。働いてないので、年中小屋に居る、ACOと一緒に。情に厚く、涙もろい一面がある。信頼できる仲間は少ない。犬の世話を好んでするが、生 活力は低い。深い眠りにつくのは夜中の12時以降。目が覚めるのは朝の4時頃。そして、彼も又日本のホームレスらしく物を乞わずプライドが高い。

頭の中で、整理します。盗る場合の時間帯、盗った後の行動。
盗らない場合、どんな風に話を持ちかけるべきか……。プライドを傷つけて怒らせてはいけません。「こんな場所に居てもACOは幸せではない」そう言っては いけません。何度も通い何度も考えた私は、ついにメロディの卒業を機に行動に移すことに決めました。Kさんに作戦を伝えると、「読めないわね。うまくいく かしら? でも、いずれにせよ、私も一緒に行くわ」と言ってくれました。

いつもはドックフードを大量に持って行きます。でも、ACOを連れて帰るつもりなので、フードを無駄にしてはいけないと、ドックフードの代わりに焼酎を3 本。小屋に着くと、飼い主の男性は珍しく外出中でした。ACOがウレしょんでお出迎え。今なら作戦を変更して、盗れるかも? と思いましたが、盗るのはや はりやめました。小屋を覗くと、中にはぺディグリーチャム(犬のフードのメーカー名)の缶や、ドライの袋が幾つもありました。私が渡したものではありませ ん。彼が自分で買った物です。彼らにとってぺディグリーチャムは高価なはず。それを買って与えている……。

Kさんと目が合いました。
今日、うまくいかないかもしれないですね
そうね。

小屋の周りを少し掃除していると、飼い主が戻ってきました。目を見つめて切り出します。心臓がドキドキして息苦しかったです。
「聞いて欲しい事があるの。……実は、私には叔母が居て、その叔母が数年前に息子さんを事故で亡くしたの。それきり元気がなくなって、この前会った時、励 まそうと思っていろんな犬の写真を見せたの。そしたら、自分が若いときに飼っていた犬にそっくりだからACOを飼いたいと言われたの。“この子はダメよ。 今大切にされているんだから。他の子にしましょうよ”と言ったけれど、他の子ではなく、前の犬似のACOがいいと泣いてしまって……。だからダメモトで頼 みに来たの。ACO、ダメ? 勿論、叔母は礼に厚い人だからきちんとお礼はするわ。要らないとおっしゃるでしょうけど。」

飼い主の曇った顔。そして沈黙。
「……いいよ。今持っていくかい? 今、持って行ってもいいけど、一つだけ約束してくれよ」
「何?」
「いい犬だから、大切に飼ってくれよ。オバサンにそう伝えて」
もう、嬉しいのと切ないので涙が止まりませんでした。

「はい。必ず伝える。大切に飼うように必ず伝えるね」
そして、ポケットから「お礼 ○○」と書いた袋を出し、手渡しました。○○は、架空の 叔母の名前です。Kさんと思いつきで決めました。中身はお金です。一人で出すつもりでしたが、Kさんがどうしても半分出すと言ってくれて折半になりまし た。少し時間を置いて、飼い主とACOを二人きりにさせました。飼い主は、うなぎと中トロをACOに食べさせていました。最後のご褒美のつもりでしょう。

「最後にもう一度、抱っこします?」
Kさんが話しかけると、飼い主は大粒の涙をこぼして、首を横に振りました。
「もういいよ。もう十分」

ACOが我が家にやってきた経緯の全てです。


小さい時、嘘をついてはいけないと教わりました。けれど私は、嘘をつきました。私には、ACOを欲しがる叔母など居ません。他の選択肢がどうしても思いつ かなかっただけです。私は、残酷なことをしました。でも、後悔などしていられません。ACOを幸せにします。そう約束したし、それが私のやるべきことだと 思うからです。

スポンサーリンク





ACO1 出会い

私が住む地区には土手があり、無数の犬猫がホームレスによって飼われています。幸せな卒業生のコロンもそうでした。そしてナナの生き残っている兄弟たちや姪・甥も土手に居ます。

さて、皆様は他国のホームレスと日本のホームレスの決定的な違い、分かります?
数年前、ドイツ記者の記事を読んで、それを知りました。私がはじめて日本へ来たのは9歳の頃でしたが、私が居たのは貧しい国で、まだ「物乞い」と呼ばれる 人たちが多数居ました。日本に来て気がついたことですが、日本のホームレスの大部分は、物乞いをしません。そこが他の国のホームレスと大きく違うと思いま す。だからプライドが高く、扱いにくい側面を持っています。彼らと話すときには、彼らのプライドを一番に考えなくてはなりません。それが難しいと思うこと があります。人間のプライドは簡単に傷つくもの。彼らの心はそういう意味ではガラス細工です。どんなことを言われても「生活力もないくせに」とか「家もな いくせに」とは絶対に言い返せません。

土手のホームレス達とは、5年ほど前から付き合っています。彼らが飼っている(?)犬や猫に薬を飲ませたり、注射したり、不妊手術をするためです。去年は カラオケにも行きました。ファミレスでも良く一緒にご飯を食べます。「頑張って自立してよ。応援するから」彼らの自立のために、区議会議員とも話し合いま した。国会議員の事務所にも一人で行きました。アポなしで(笑)。

でも、私の真意は違います。残念ですが、私はホームレスの支援活動をしているわけではありません。私はそこで生きてる犬をどうにかしたいと考えているだけ です。実際に私の力添えで自立したホームレスは一人もいません。彼らの多くは、刑務所へ出入りしたり、自由気ままに暮らしているのが好きだったり、あるい は社会へ出るのが怖いタイプの人間なので。だから自立をしてもすぐに土手へ戻ってきます。きっと、社会に対して漠然と不安や絶望を感じているのでしょう。 不遇な幼少時代であったのかもしれないと勝手に推測しています。

半年前、彼らの一人から電話が鳴りました。
俺の仲間が新しく犬を飼い出したんだ。よろしくな
「また増やしたの? オス? メス? 何歳?」
私が一番気になるのは、性別。

「メス。まだ生後7ヶ月くらいだと思うんだけど、殴っても言うこと聞かない生意気な犬だよ。木の棒で今、仲間が殴ってしつけてるんだけどそれでも聞かない時がある」
「殴らないで! いい? 殴らないで! 絶対にダメよ。殴るのはだめ。殴ると余計悪い子になるわよ。そう仲間に伝えて」
「でも猿でも殴れば芸が出来るから、ある程度は殴るってよ」
わけの分からない答え……。

チチとお出かけ中でしたが、通行人の前で「だめ!殴ったら縁切るわよ、もう助けてあげないからね」と絶叫し、すぐに電話を切ってKさんに(ボランティア仲間)電話をかけました。

「今、土手のNから電話がありました。メス犬一頭、増えたそうです」
「え? そうなの? ならすぐ不妊手術させましょう。協力するわ。いつ行く?」

行って出会ったのが、ACOでした。
ACOは小柄で静かな犬でした。そして真っ直ぐ私を見つめる目が印象的でした。


私とは初対面の初老のホームレスが飼っていました。ホームレスは数え切れないくらい居ます。でも、私はもう殆どの顔を知っています。彼らとの長い付き合い の中で信頼を得ているという自負もあります。けれどこの飼い主とは初対面なので、性格が掴めません。それに殴ってると聞くし。オス猫も2匹飼っています。

さて、どう出るか……。

「はじめまして。この子の飼い主? 唐突だけど、赤ちゃん増えると厄介だから手術させてもらってもいいですか? 全部こっちでやるから」
そう切り出すと、
「ああ、いいよ。お宅のことは良く知ってるよ。手術してもいいよ。いつ?」と返ってきました!

ヨシ! 第一関門クリアです。土手のホームレスは不妊手術に反対する人間も多く、その為、子犬が生まれてしまうこともありました。でも、今回はOK。良かった。数日後、病院に予約を入れて、ACOを迎えに行きました。その頃の記事がここにあります。

車内での私とKさんIさんの会話。
「こんなに可愛い子だとは思いませんでした。何とかしてとれないでしょうか? まだ若く、これからの可能性がある。土手でこのまま生きていくのは忍びない」と私。
「盗る? でも危険よ。あなたが盗ったのが分かったら、他の子に薬を飲ませに通うことが出来なくなる。今までの信用が崩れるわ」Kさん。

ホームレスは時に、対外の為に団結します。一箇所で彼らに敵視されたら他の場所で生きている犬に薬を届けるのが難しくなるかもしれません。私が盗る事は出 来ません。では、誰が盗る? いつ盗る? 盗る以外に、方法はない? くれと頼んだらACOをくれるかしら? でも、大概のホームレスはいくら犬をくれと 頼んでも手放しません。

……ダメ元で一応頼んでみる? 頼んで断られたら諦める? それとも盗る? でも、断られて次に盗ったら、犯人が私以外の何者でもないと分かってしまう。そしたら他の犬に近づくことさえ許されなくなる……。

悶々とこんなことを考えていた半年間でした。

小さい時、人のものを盗ってはいけないと教わりました。私はそれを守ることが出来なくなるかも知れません。彼らは警察に訴えたりしませんが、訴えたとしても窃盗罪で捕まることは恐れていません。でも盗ることは、最後の最後に使うカードにしたいと思いました。

ちょっとじらしちゃいますが、今日はこの辺で終わりにしますね。長くなってしまったし、腰が痛むので(笑)。

結果だけ、先に言っておきます。

「盗ってません」

私が通うと笑顔とウレしょんのお出迎えでした。


ウレしょんをしているのが、分かりますよね?

スポンサーリンク